アーツ千代田3331を率いる中村政人の実に10年ぶりの個展「明るい絶望」がアーツ千代田3331においてはじまった。作品のメインは約40,000枚にもなる膨大な数の写真の中から、1989〜94年のソウル〜東京に絞って厳選した約700点のフィルムで撮影した写真群。自動車の車体を製造する技術を用いた絵画的作品もユニークだが、なんといっても、民芸品などを忠実に巨大化させたインスタレーションが白眉だ。

これは中村の秋田県大館の実家の飾り棚に置かれていた民芸品の人形を、同じ製造技術を使って等身大に立体化した作品だ。中村といえば、ファストフード店やコンビニエンスストアのサインから色や形だけを抽出したインスタレーションがよく知られているが、この民芸品やフランス人形の巨大化は、日常の中に埋没しているコンビニと、家の棚という日常と過去に埋もれてしまった民芸品という点において、どこか似通っていると感じる。日常に溶け込んで存在するものが巨大化することで存在がより際立つ。

僕は、中村のアートとは、秋葉原TVであり、トランスアーツトーキョーであり、アーツ千代田3331だと考えている。20年かけてアートと社会の関係性を実践を持って問いかけてきた、いや、いると。そうした中でのこの巨大な民芸品はどんな意味を持つのだろうか。そこから「明るい絶望」というタイトルと実家の飾り棚の向こうに見える、忘れ去られようとしている現実に思い至ってしまう。

日本人にとって人形=フィギュアとは日常にありながら特別な存在なのかもしれない。実家の棚にあったこれらの民芸品やフランス人形と同様に、3段ボックスに飾られたガンプラやフィギュアもいずれ日常に溶け込むのだろう。そうしたら中村がガンプラを巨大化させる日がくるのかもしれない。

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